一橋大学が就活生情報を企業に提供、内定が降ってくるという世界観

2014.8. 8  2640Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。

a1180_001692.jpg

「一橋大、就活生情報を企業に提供」という面白い動き



少し時間が経ってしまいましたが、8月4日の日経夕刊に就活関連の面白い動きが紹介されていました。
私の母校、一橋大学の取り組みです。

一橋大、就活生情報をデータベースに 企業に提供(日本経済新聞)


この報道によると、概要は次のようになっています。

●2015年度から就職活動中の学生の情報をデータベース化し、企業に提供する取り組みをスタート。学生の専門分野や留学経験、長所などを担当部署が一覧に整理。卒業生の採用実績があり「会員」として認定された企業が閲覧できる。
●データベースに登録されるのは、キャリア支援室を利用し、登録を希望する学生の情報。各学生の性別、国籍、外国語試験の成績などのほか、性格や長所についてキャリア支援室職員によるコメントも掲載。
●一橋大生の採用実績があり年間5万4千円の会費を納めた会員企業が利用可能で、学生側から問い合わせがあれば、メールで直接やり取りすることができる。
●初年度は学生100名程度の利用を想定(一橋大学の学部生は1学年1000名弱)。企業からは既に150社の応募が。

同大学キャリアセンターのHPには、学生向けに「2015卒向けスカウトプログラムを開始しました。詳細はキャリア支援室までお問い合わせください。」という表記がありますが、詳細はわかりません。


あくまで、今ある情報を元に論じますが、私はこの取り組みを評価しています。
珍しいようで、当然の流れだと思っています。
私がなぜ、評価するのか?
私はどう大学の学部、大学院修士課程のOBではありますが、いったん愛校心を手放して論じたいと思います。



時代は脱ナビ&直アプローチ、ターゲット採用、スカウト型へ?



この取り組みは、斬新ではありますが、ここ数年の流れを具体化したものだと言えます。
一つは脱就職ナビ、直アプローチの動きです。
もちろん、就職ナビを完全に利用しない採用もまた難易度が高いですが。
とはいえ、採用ルートの一つとして、間に就職ナビが介在せずに、企業が大学や学生に直接アプローチする取り組みが注目を集めてきました。

ターゲット校を設定する企業もほぼ増え続けてきたのも特徴です。
特定の大学、学生に、直接アプローチする施策に企業はシフトしていたのです。

また、スカウト型、斡旋型のサービスも徐々にではありますが、増えてきていました。
たくさんの応募を探すのではなく、欲しいと思える人を探しに行く採用手法が注目されています

企業からターゲットにされやすい、一橋大学がこのような取り組みを行ったということは大きな変化と言えるでしょう。
採用できるかどうか、結果は保証できないものの、年間5万4千円という利用料金で一橋大学の学生に直接アプローチできるのですから。

学生にとっても、何社にも応募する手間が省けます。
黙っていても、企業からアプローチがくるわけですから。
この「内定が向こうからやってくる」という世界観は、日本の就活が多様化する上で、もっと注目されて良いものだと思います。

もっとも、これによりマッチングの総数が増えるか、ハッピーな就職&採用ができるかどうかは別問題ではあります。
このモデルの構造的な問題点も確認しておきたいです。
この手のスカウト側サービスも、通常の就活同様、いや、それ以上に一部の学生にオファーが集中しがちです。
しかも、このモデルでオファーが集中する学生は、普通に人気企業を受けても内定する可能性が高いわけです。
言うまでもないですが、オファーが来ない学生には、全然来ません。

ネットで仕組みだけを作るだけではだめで、学生が使いこなすためには、キャリアセンター職員のサポートはますます必要でしょう。
就職に強いと言われる同大学ですが、とはいえ、この記事によると、希望の企業の内定を得ることができず、留年する学生が毎年50名程度はいるとのこと。
少しでも就職のルートを増やそうという下心も感じます。

とはいえ、斬新な取り組みだと言えるでしょう。
どんな成果が出るか、他大学にどこまで広がるか。
注目したいと思います。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。