avexの「志」一括採用で考えた、既卒者の採用の現状

2013.7.19  3938Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。

a0002_003654.jpg

センセーショナルなようで意外に普通なavexの採用


先日、Twitterを開いたら、avexの松浦代表のツイートが流れてきました。
フォローしていないので、どなたかのRTでした。

内容はavexは新卒一括採用をやめ、「志」一括採用に移行するという内容でした。
詳しくはサイトを見て頂きたいのですが、応募条件を大幅に緩和し、既卒者もOKにしていること、プレゼンテーションや職場インターンを経て採用すること、以前落ちた方もチャレンジできることなどが特徴でした。

率直なところ、私はあまり驚きませんでした。
というのも、募集条件を大幅に緩和したり、ユニークな選考を行う採用はここ数年増えていたからです。
有名なものでは、ライフネット生命の採用です。
30歳までの既卒未経験者を採用対象としたり、論文で採用する取り組みを行なっていました。

そういえば、ソニーもかなり応募条件を緩和し、複数のユニークな選考プロセスを用意するなどしていましたね。
まあ、ソニーのときも目新しそうで、目新しくなかったわけですが。

また、気になったのは、よくも悪くも選考期間が長いことです。
じっくり選考するということなのですが。
現役生の場合は卒論、修論と重なりますし、既卒者もその期間の生活とのバランスが気になります。
そして、結局、2014年4月1日入社です。

結局、新卒一括採用をやめ「志」一括採用に変えると言いつつ、「条件を緩和したユニークな新卒一括採用」にしか見えないのは私だけでしょうか。
まあ、メディアの反応も冷静で、ネットニュース含め、あまり話題になりませんでしたが。



既卒者に門は開かれているのだけど


ただ、ぜひこの場を借りて、avexさんに期待したいのは、ぜひこの取り組みの成果を可能な限り開示して頂きたいということです。
興味があるのは、果たしてどれだけの既卒者が応募するのか、採用されるのかという点です。

というのも、既卒者に門を開いている企業はいまや結構な割合であるのですが、そもそも応募がないという声を聞くのです。
既卒者に大胆に門を開いたことで話題になった企業の人事部長にヒアリングしたのですが、思ったほど応募がなかったとのこと。
「そもそも応募が少ない」という点にも注目したいです。

ここで、どれくらいの企業が既卒者の応募を受け付けているのか。いくつかのデータで見てみましょう。
なお、これらのデータは調査対象、方法がそれぞれ違うので、単純に比較はできません。

----------------------------------------------------------------------


●日本経団連「新卒採用(2012 年 4 月入社対象)に関するアンケート」


調査概要などはこちらをご覧ください。
該当部分を抜粋します。


◇調査要領

(1)調査目的:企業の大卒等新卒者の採用選考活動を総括し、次年度に向けた動向
を把握することを目的に 1997 年度より実施。
(2)調査対象:(一社)日本経済団体連合会企業会員のうち1,285社を対象
(3)調査形式:無記名式アンケート(業種・企業規模のみ記入)
(4)実施時期:2012 年 5~6 月
(5)回答状況:582 社(回答率45.3%)
*製造業 44.3%、非製造業 54.5%、無回答 1.2%
*従業員数 1000 人以上 70.6%、500 人以上~1000 人未満 14.1% 500 人未満 14.1%、無回答 1.2%
出所:日本経団連「新卒採用(2012 年 4 月入社対象)に関するアンケート」(2013)

この調査によると、既卒者の応募受け付けについて、「実施している」または「2013 年 4月入社対象の採用選考活動から実施予定」と回答した企業は 75.0%となっています。
「今後実施を検討する」と回答した企業を合わせると 87.0%となっています。
そのうち80.4%が新卒採用と同様の扱いで受け付けており、その 68.2%が応募の条件を設けています。
応募の条件は「卒業後の年数」が78.3%と最も多く、そのうち83.3%が「3 年以内」と回答しています。
従業員数1000 人以上の企業が70.6%と、大手企業中心の調査ですが、門を開いている企業は実は大多数だということがわかります。

もっとも、これは「門をあけている」という意味であって、採用したかどうか、そもそも応募があったかどうかは別問題ですが。

----------------------------------------------------------------------


●リクナビ、マイナビの既卒者OK企業の数


あくまで掲載企業の中での比較ではありますが・・・

リクナビ2014:掲載企業10456社中2346社(22.43%)
マイナビ2014:掲載企業9847社中2202社(22.36%)


ともに7月19日現在の数字です。
なお、リクナビとマイナビには同時に出稿している企業があること、既卒の件についてリクナビは「応募資格に既卒者を含む」、マイナビは「既卒者も同時募集」という表現になっていることをお含みおきください。
他の検索軸とあわせて出してみると面白そうですが、今回はここまでにとどめておきます。

リクナビ、マイナビに掲載するような予算がある企業が中心となっているわけですが、ともに約22%と、先ほどの経団連の数字と比較すると、大きな差がありますね。

----------------------------------------------------------------------

●労働政策研究・研修機構(JILPT)「中小企業における既卒者採用の実態」

こちらの調査は、中小企業における、既卒者採用の実態をまとめたものです。
概要をこちらでみることができます。
同団体が2007年に行った「企業における若年層の募集・採用等に関する実態調査」をもとにして、その資料を再分析したのです。
全国の従業員100人以上の企業10000社に対して調査票を送付し、3449社から回答がありました(詳しい調査概要はもともとの報告書にあります)。

ここでの既卒者の定義は「学校を既に卒業しており、正規のしごとに就いたことがない、あるいは正規のしごとを早期退職した35歳未満の若者」です。

では、既卒者募集の実態はどうなっているのでしょうか。
過去一年間(この調査を行った時期からいうと平成18年9月〜平成19年8月)に新規学卒者枠で正社員を募集した2537社と、中途採用者枠で正社員を募集した2558社を対象に調べたところ、既卒者の募集がある企業は新規学卒者枠では2537社中711社(28.0%)、中途採用枠では2187社(85.5%)でした。
新卒枠では少ないものの、既卒者枠では募集対象にしている割合は高いということですね。
やや時間が経っており現在は変化していることも考えられますが。

----------------------------------------------------------------------



調査内容にもよりますが、このように既卒者への枠は開いていないわけでもないということですね。

もっとも、既卒者の採用実績はどうなっているのか。
これが気になるポイントでしょう。
たしかにOKなふりをしていても、実際は現役生中心に内定を出しているのではないかと疑ってしまいますよね。
とはいえ、前述したようにそもそも応募がないという問題もあるわけです(これも、実数は公になっていないわけですが)。

では、既卒者の応募はなぜ少なくなるのか?
この問題については、別の機会に詳しく論じることにしましょう。
お楽しみに。

これまた複雑なのです。

やや話が拡散しましたが、avexの採用改革の話を聞いて、本当に既卒者が応募するのか、そもそも既卒者はNGは本当かということについて考えてみました。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。