「キチョハナカンシャ」はなぜウザいのか?採用担当者の気持ちから考える

2013.2. 8  31152Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。 



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「キチョハナカンシャ」って、なんだ?




ここ数週間、ネット上で話題になった就活用語があります。


その名も「キチョハナカンシャ」です。


どうやら、会社説明会などで、質疑応答をする際に最初に「本日は貴重なお 話をありがとうございました」と言うことをさしているようです。


今年の就活ワード「キチョハナカンシャ」て何だ?(NAVERまとめ)


たしかに、いますよね。


このNAVERまとめにもあるように、その後に、「私、○○大学○○学部の○○と申します。質問が○点ございまして...」みたいな自己紹介と、質問が続きます。
会社説明会でよく見かけますよね...。


ここに重ねて言うならば...。
この手の質疑応答に合わせて、自己アピールまで始める学生っていますよね。


「○○大学の○○です。本日は貴重なご講演ありがとうございました。貴社の取り組みにお いては○○という点が素晴らしいと思っていて、私も以前から本を読んで勉強していたので すが、本日、経営者の方とお会いできて嬉しいです。私も普段から御社の製品を愛用して います。あの質問なのですけど...」


早く質問をしろと言いたくなります。
聞いていても「ウザイな」と感じることはありませんか?






質疑応答を自己PRの場にしてしまう学生たち






話はやや脱線しますが...。


「意識高い系」という病~ソーシャル時代にはびこるバカヤロー (ベスト新書)』でもご紹介しましたが、講演会をしているときに、質疑応答コーナーを利用して、ほぼ関係ない質問のような、自己PRのようなことをされると、参ってしまいます


2年前に中央大学で講演した際には、


「本日は貴重なご講演ありがとうございました。あの、質問ではないのですが、告知をさせてください。新しい学生団体立ちあげました。皆さん、チラシを持ってきましたので、ご覧ください」


と言われ、「なんだかなぁ...」と思ってしまいました。


 数年前に、早稲田大学でキャリアに関するパネルディスカッションに参加したときは、こんな「質問」のような、アピールをしてきた学生がいました。


「早稲田大学3年の○○です。あの、私は生活を保障する上でも、生き方の多様性を実現する上でもベーシックインカムの導入が必要だと考えています。現在、文字通りのベーシックインカムを導入している国はまだありませんが、今後、誰もがいきいきと働ける社会を作るためにも、人が死なない社会を作るためにもこれが必要だと思うのですが、皆さんはどう思いますか?」


いやあ、困りましたねえ。
ほとんど、この人のアピールじゃないですか。
セミナーの趣旨ともほぼ関係ないではないですか。
働き方、生き方という点ではぎりぎり重なっていますし、社会問題や、今後の社会のあり方に関心を持つことや、それに言及することは大事ですが。
でも、明らかにセミナーの内容とは違いますね。


さらにこの後、その学生がTwitterの、そのイベントのハッシュタグでこうツイートしていました。


「イベントに行ってきた。ベーシックインカムの質問もばっちりして、アピールしてきた。言い続けることが大事」


姿勢として、「言い続けることが大事」には同意しますが...。
人や場を利用してやろうという想いが明らかで嫌な気分になってしまいます。


こういう人に「本日は貴重なお話をありがとうございました」と言われても、何の説得力もありません。




修羅場で疲れる採用担当者




さて、「キチョハナカンシャ」に話を戻しましょう。


ネット上では、これを言った方が有利になるみたいな都市伝説まであるようです。


うーん...。
毎年、こういう就活有利・不利話があるわけですが、冷静に考えましょうよ。


これだけで、印象が劇的によくなるとか、有利になるとか、ありえますかね?


別の視点で考えてみましょう。
この時期の採用担当者は、修羅場です。毎日のように会社説明会をしたり、書類選考や面接をしたり...。
疲れている中で、「本日は貴重なお話をありがとうございました」と、形式的に言われても、「またか...」と思うことも。
会社説明会も時間がかっちりと決まっているわけですから、一人でも多くの人の質問に答えたいわけです。


気をつけないと、セミナーの満足度が下がってしまいますし...。
前置きに時間をとられるよりも、早く質問をしてほしいと思うわけです。 


前述したような、前置きが相当長いのも困りますが、どうように「なんだかな」と思うのは、「本日は貴重なお話をありがとうございました」など、丁寧な前置きをし、感想を述べられた後で、話の内容を誤解していたり、質問の内容があまりに残念というパターンですね。本当に話を聞いたのかという気になるわけです。
特に質問の質は問われますねえ。
これは別に会社説明会に限らず、OB・OG訪問や面接での質疑応答でもそうですけどね。




最後に。
「貴重な話」と言うのは勝手ですが、所詮、会社説明会で企業がする話は、企業側の都合で作られた話です。
それは本当に貴重な話だったのか。これも考えてみましょう。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。