「考える力」を鍛える講義とは?学生2000人対面調査、そのすごい中身

2012.3. 7  1524Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。


「これは良企画!」


思わず佐々木俊尚風に叫んでしまいそうな、調査結果が発表になりました。
NPO法人大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会(略称DSS)が発表した、企業が採用面接時に評価している「考える力」に注目して大学の授業の中で積極的に「考える力を評価している(知識の評価だけではない)」または「考える力を育成しようとしている」と思われる授業を調査し公開する企画です。
首都圏有名大学4年生2000人への対面調査を実施し、9大学28学部の授業のうち「考える力を評価している授業」「考える力を育成している授業」を公表したものです。


◆調査結果はこちらです。
◆調査方法などはこちらをご覧ください。


この調査は、日本の大学、そして就活がまともなものになるための、大きなきっかけになる調査になるのではないかと期待しております。


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就活が学業を阻害すると言うけれど




ここ数年、メディアは就活、もっと言うと新卒一括採用に対する悪者論で満ちていました。


中でも就活の早期化・長期化による学業阻害が問題とされ、「就活の時期を後ろ倒しするべきだ」「卒業後に就活をするべきだ」などの意見が出ていました。


実際、これを受けて、経団連は倫理憲章の見直しをし、本格的な採用活動の実施時期を大学3年の10月から12月にずらしました。


日本の大学には1兆数千億の我々の血税が投入されています。
ましてや、我が国は様々な深刻な問題に直面しております。
未来を創るためにも、負けない日本人になるためにも、日本の学生は勉強しなければならないということに対して、私も問題意識を持っています。


ただ、「もっと勉強しろ」「勉強させろ」という議論は、気を付けないとカタルシスにしかなりません。
私が数年前からずっと指摘してきたことですが、「じゃあ、日本の大学は立派なのか?」というと別問題です。


昔は「入りづらく出やすい」と言われた日本の大学は、いまや多くは「入りやすく、出やすい」ものになりました。
講義評価はあるものの、形骸化しています。
先生は、面白い講義をしても得しません。
単位認定も、基準が統一されているとは言えません。
出席さえしていたらお情けで単位はもらえます。
学生もAを取るためではなく、単位を取るために勉強しています。
講義の内容にしても、教授を解雇するのは事実上困難のため、その教授を食べさせるための、名前と中身がまったく違う講義などが存在しております。


実践女子大学の教え子たちが大学生に対して行った調査によると、77.0%の学生が「講義名と中身が違う」という体験をしております。
さらに、その経験をした学生の77.0%が抗議や問い合わせなどを「何もしなかった」と答えています。


さらに言うならば、日本は高校までと大学からの勉強が違いすぎます。
その接続はほぼ上手く言っていません。
導入科目、入門講座なども設置されていますが、ちゃんと機能しているとは言いがたいでしょう。
大学での勉強のやり方がわからないまま、4年間を過ごしている。
そして、なんとなく単位はとれて卒業できてしまう。
これも日本の大学の現実です。
レポートの書き方すらわからない学生は、そりゃあネットで記事を探してコピペに走るわけです。
ちなみに、先日、学生のレポートのコピペを見破りましたが、テキストで貼りつければいいところを、わざわざHTML貼付けにしていました。
まぁ、やや特殊な例で、一般的な話ではないですけどね。
もちろん、厳重に対応しました。


来週、『大学生のための「学ぶ」技術 』(主婦の友社)というスタディガイドを発表します。


大学でまともに勉強するためのノウハウを紹介するための本です。
この本の、裏テーマは日本の大学に対する問題提起です。
学業を阻害しているのはいつも就活だという話になりますが、それだけが問題ですか?
そもそも勉強のやり方も教えられず、普通にやっていれば何の付加価値もなく、なんとなく大学を卒業したことになってしまう仕組み自体が問題ではないでしょうか。
そして、秋入学にしろ、新卒一括採用見直しにしろ、中長期の制度論をしたところで、大学生は今、そこにある勉強や就活に向き合わなくてはならないのです。


言ってみれば、私なんかによるこの本が出てしまうこと自体が、日本の大学の問題だと思いませんか。


「就活は学業を阻害している」という意見は、ごもっとものようで、これ自体が言いっ放しの意見になりがちです。
やや意地悪な言い方をするならば、「自分たちのことを棚にあげて...」と見られてもしょうがありません。
昔、格闘家の前田日明選手はアントニオ猪木に対して「猪木なら何をやってもいいのか」と批判しましたが、同じように「大学なら何をやってもいいのか」と言いたくなる人もいることでしょう。


企業にしても、「学業阻害は問題だ」と言ったところで、特に文系の場合は勉強に対する取り組み姿勢を聞くだけであって、中身のことはほぼ理解していません。
これまた、やや意地悪な言い方をするならば、学生の皆さんは経団連の倫理憲章にサインした企業が、選考において学業のことを聞かないとしたならば、怒った方がいいと思います。




本当に考える力が身につく講義とは何か?




大学に対して私が思うことを熱く語ってしまいましたが、この調査結果は、このNPO法人の名前が物語る通り、大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる大きな一歩だと言えるでしょう。この調査は授業を評価すること自体が目的ではありません。


・学生は、正課にも課外活動の双方に力を入れることにメリットがある
・大学講師は、教育(育成と評価)と研究の双方に力をいれないとデメリットがある
・企業が採用時に成績を参考にしたほうが、効率的な採用ができる。


という方向に社会が動くことを目的としています。


もちろん、「大学の対象数が少ない」「対象人数が少ないのではないか」「結局、仕事に役立つ勉強を評価しているのではないか?」というご批判の声もあることでしょう。
ただ、これはあくまで第一歩です。


今までの企業と大学の就活をめぐる関係は責任のなすり合いでした。
互いに批判することによって、または気持ちがわかるふりをすることによって、あるいは建前の議論をすることによって、結局、本質はあまり変わらずにいました。
上野千鶴子風の言い方をするなら「共犯関係」ですね。




いずれにせよ、就活をめぐる今後の大学と企業との関係を考えるための大きな一歩と言えるでしょう。
まずはレポートをご一読ください。




執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。