富士通の職種別採用...、真の意図とは?

2012.1.26  7665Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




文系で職種別採用はたしかに珍しい




新卒採用関連のニュースがまた届きました。


富士通が2013年春入社から、文系の新卒大学生を対象に職種別で採用する新制度を導入することを日本経済新聞が報じました。


富士通、文系学生も職種別採用 SEや財務など(日本経済新聞)




これまでも富士通は特技や異色の実績を持つ、突き抜けた新卒学生を採用する「チャレンジ&イノベーション採用(一芸入社)」を導入し、話題になっていましたね。


職種は営業、システムエンジニア(SE)、サプライチェーンマネジメント、財務、知的財産など8つの職種別で採用するそうです。
採用人数の約2割をこの枠で採用するそうです。


新卒採用関連のニュースで言えば、ユニクロやネスレ日本が大学1年生から採用対象にすることや、逆にソニーが既卒3年以内を社会人経験のある人を含めて採用することなどが話題になっていました。
それに比べると、やや地味かもしれませんが、むしろもっと注目されていいニュースかなと思っています。
日本の大手企業で、文系を対象にここまで職種を分け募集している例はたしかに珍しいですね。






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配属の希望は通るとは限らない




「配属の希望はどれくらい通りますか?」


思えば、リクルート時代にOB・OG訪問を受けた時にも、玩具メーカーで採用担当者をしていた時もよく配属に関する質問を受けました。
正社員総合職の場合、配属先の事業部・職種と勤務地の希望が必ずしも通らないですからね。
選考過程や配属面談で本人の希望も聞くものの、人事から見た適性や、配属先部署の人材ニーズを元に決めていくのですよね。
本人が○○事業部の企画職を希望していても、部門の業績や人員構成などによって通らないこともあります。
これが現実です。
金融機関のエリア総合職が女子学生から支持されていますが、理由の一つは職種や勤務地など配属先が特定できるからでしょう。


リクルートに勤めていた頃、同期の配属先の事業部長がキックオフイベントで「サラリーマン、仕事と上司は選べない。ガハハ」と言って、総スカンを食らったことがあったそうですが、これもまた現実なわけですよ。
私も希望外の異動を経験したことが何度かあります。


もっとも、どこに配属されるか分からない日本の総合職という仕組みは、少なくともいままでは合理性もあって、「何が向いているか分からない」「やりたいことが明確ではない」という人でも、社内異動を通じて経験を積み、スキルを高めることが可能でした。
やりたいことを「見つける」のではなく、「見つかる」というメリットがあったわけですね。
あくまでハッピーシナリオですが。


職種別採用をしていない企業でも、面接中に「この学生は営業タイプだなあ」「この学生は管理部門向きだなぁ」とかなんとなく判断していくわけなのですが。


とはいえ、どこに配属されるかどうかが分からないのはやはり不安ですよね。
キャリア形成に関心のある学生にとっては、自分の道を自分できめることができるという点で魅力的だと言えるでしょう。


 

「この職種の募集があるなら受けようかな」こういう学生が増える?




ここまで褒めモードで書いておきつつ、穿った見方をしてみると、このコース別採用をすることによって「富士通には興味がないけど、知的財産の仕事ならしてみたい」という学生を獲得できるのでしょうね、きっと。


そう、いるんですよ、こういう学生。


大学で具体的な職種とつながりやすい専門分野を学んでいる学生、途中まで司法試験、公認会計士、税理士などの勉強をしていた学生などから支持されることでしょう。
そう、専門分野を活かして活躍したい学生にとっては、総合職でどこに配属されるか分からないことは不安なんですよね。


そういう学生は、業界は関係なく、職種軸で仕事を探すのですね。
企業ブランドだけでなく、職種の中身に期待する学生に支持されることでしょう。


その結果として、富士通としてはいままで採用できなかったタイプの学生を採用できるわけですね。




総合職の分化が始まっている?




では、今回の施策は学生を救うのでしょうか?


結論から言うと、すべてがこれに移行するわけではないことを考えると、学生にとってはメリットが大きい施策なのではないかと思っています。
今回の件の副次的効果として、むしろ採用のバーを下げる力学が働くのではないでしょうか。


正社員の総合職は、いわば幹部候補生として採用されるわけで、求める能力の高度化が進んでいます。
気づけば、どの企業も採用基準がハイパー総合商社マンみたいになっています。
この取り組みによって「コミュ力が高いわけではないけど、この職種ならバッチリ活躍できそう」というように、学生に神様レベルの能力を期待する採用から脱却できるのではないか、と。
もちろん、ある能力が極めて高いことは期待されるのでしょうけど。


正社員総合職に求める能力は神様スペック化していましたが、最近ではハイパーグローバル総合職とノンキャリ総合職に分化する兆しが見えています。


今後、総合職で正社員=幹部候補生という採用のやり方がいいのかという議論が活発になりそうですね。
ところで、皆さんは今回の富士通の取り組みについてどう思いましたかね?
企業を選ぶ際にこのような職種別採用が嬉しいですか?
それとも配属先が分からないままでもよいでしょうか?




学生不在の施策になってもしょうがないので、皆さんの意見を聞いてみたいです。
どうでしょう?


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。