総合商社の採用時期がさりげなく元に戻っている!?
2011.11.17 3822Views
こんにちは。常見陽平です
今年度の商社の採用時期は結局、いつなの?
日本経済新聞のこの記事が話題になりました。
◆貿易会、新卒採用活動「4年生の8月以降に」 再び提言(日本経済新聞)
見出しを見た瞬間、「あぁ、結局、総合商社は採用時期を夏にするのね」と解釈しました。
ご存知の通り、総合商社は昨年の今頃から、2013年度採用から採用時期を大学4年の夏にすることを発表していました。
◆新卒者の採用活動に関する基本的考え方(社団法人 日本貿易/2010年11月17日)
ニュースでもよく取り上げられましたね。
たとえば、こんな記事です。
◆日本貿易会が就活時期見直し 新卒採用試験を4年生の夏以降に(産経ニュース/2010年10月)
一方、今年の夏頃から、人材ビジネス関係者、採用担当者、大学関係者の間では、
「どうやら、2社がこの取り決めから離脱するらしい」と噂されていました。
このニュースの見出しを見て、そうか、ちゃんと決行するのかと思っていたのですが...。
いつの間にか2014年度のことになっている...。
よく読むと、2013年度は経団連の流れに追随するとあります。
あれ、結局、今年はやらないのですね。あれだけの肝いり企画だったのに。
いまのところ、日本貿易会のHPには経緯が語られていません。
何があったのでしょうか?
もちろん、2012年度は震災などにより採用活動が混乱したことなどから、もう1年先にしたのかもしれませんが。正式な発表を待つことにしましょう。
まぁ、記事を書くのは新聞社なのでコントロールはできませんが、変更の経緯は社会に対して説明するべきです。
いや、庶民の気持ちから言うならば、「2013年度はやっぱりやりません」こっちの方がニュースじゃないですか。
もちろん、総合商社は学生にも人気で、その採用活動が社会的影響を与えるため、
他業界に配慮したというのは気持ちとしてはわかりますが、
でも、昨年の意思決定にはそんなことはとっくに織り込み済みだったはずです。
まぁ、今年もそうなったわけですが、商社が後ろ倒しにするなら、
受けようとする学生の就活はますます長期化する可能性があったわけで。
行きたい企業に落ちて、目覚めるのが遅くなるということもありますねぇ。
外資やベンチャーはどうせ早いですし。
今年ももう内定が出ていますからねぇ、一部の企業で。
安易に「学業阻害」って言うな
個人的には、まず「学業に配慮」という言葉が逆に安易に使われていることに憤りを感じています。
「学業に配慮」するなら、アルバイトやサークル自慢大会になる日本の面接において、ちゃんと「勉強のこと」を聞くかどうかということ。
もちろん、在学中にはそのテーマの研究が完了しているわけではないです。
でも、勉強するのは3年生からなのでしたっけ?
いや、専攻やテーマが決まるのはその時期ですけど、勉強はその前から始まっています。
少なくとも取り組み姿勢くらいは聞いてほしいですし、大学の中身に詳しくなってもらいたいところです。
「学業阻害を配慮する」というタテマエの経団連の倫理憲章にサインした企業を受ける学生の皆さんは、その企業がちゃんと大学での勉強について、まともな質問ができたかどうかを監視して欲しいです。
一方、企業側への要望としては、ちゃんと大学を監視して欲しいということです。
「学業阻害」という一言は黄門様の印籠のようなもので、言うと誰もが「ははー」と頷くのですが、いまの日本の大学はそんなに立派なものなのでしょうか?
別に大学を就職予備校にしろ、就活対策をしろというわけではありません。
今のプログラムがまともに行われているのか、検証するべきです。
いくつかの大学でキャリア教育科目を担当しているのですが(って、この立場だけで元々の大学の先生や、採用担当者からも批判され、それ自体どうかと思うのですが)、私、講義のマナーにうるさい方みたいなんです。どうやら。
いや言っていることは普通で、遅刻しない、携帯をいじらない、私語をしない、最初から居眠りしない、ワークに参加してもらうというだけなんですけど、これを指導しただけで、学生からの講義アンケートには「先生がマナーに厳しかったことで、普段の講義と違って私語もなく、講義に集中できた」とありました。
大学の講義ってどうなっているんでしょう?
まぁ、この件を話すと、「私は勉強している」「私はしっかり教えている」とヒステリック気味な個別事例の紹介になるのですが。
結局、普通の学生と企業がかわいそうという現実
就活の時期については、前倒しも後ろ倒しも含め、多様化するべきであり、公的なセーフティーネットとセットにすべきというのが私の考えなのですが、一方で、このことは「普通の学生」「普通の企業」にとって辛いことだということもわかっています。
時期が決まっていないと集中できない、やる気も起きない、あるいは学生も企業もかえって出会えないということになるわけです。
「新卒一括採用があるから、中堅・中小企業の私たちも、学生の目にとまる」と言っている人事の方の意見にも耳を傾けるべきです。
また、そもそも大学も大学生も数が増え、能力も多様化したいま(ダメになったのではなく、振れ幅が大きくなったと解釈しています)、大学に入った瞬間に雇用に対する不安を抱き、就活を意識するのは当然といえば当然です。
私立大学は就職実績が生命線ですし。
時期だけの議論ではなく、学生の出会い方、採り方、育て方について考えるべきですねぇ。
いや、いつもこの手の議論については学生不在だという印象を受けるわけですが、そんな私も十分、学生不在の意見を言っているように思います。
みなさんはどう思いますか?
執筆者プロフィール
常見陽平@yoheitsunemi
評論家北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。