「日立と三菱重工が経営統合」報道くらいでビビらない勇気

2011.8. 4  2670Views

こんにちは、常見陽平です。


グローバル競争時代 経営統合、合併はよくあること


今朝の日経一面トップニュースは「日立・三菱重工 統合へ 13年に新会社、世界受注狙う」でした。
でかでかと載っていましたね。
ちなみに、スクープ、特ダネの時は見出しが白抜きで横文字になるんですよね。覚えておきましょう。


厳密には、「経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した」という報道でした。


日立製作所は今朝、「そのような事実はございません」という広報リリースを発表しました。
その後も日経は、本日の夕刊および電子版で、中西宏明社長が4日朝に記者団に対して
統合協議入りするかどうかを質問したところ「はい」と答えたことを報じています。
今後の動向が注目されます。


現在は情報が錯綜しておりますが、仮にもし、実現したとすると原子力などの
発電プラントから鉄道システム、産業機械、IT(情報技術)までを網羅する
世界最大規模の総合インフラ企業になります。
両社の売上高を単純合計すると12兆円。
トヨタ自動車につぐ規模の大企業が誕生します。
これで新興国の社会基盤事業をバンバン受注していこうというわけですね。


驚いた方も多いことでしょう。


やや煽り気味のタイトルにしましたが、私ももちろん驚きましたよ、えぇ。
いや、驚いた一方で「なるほど、そういう時代なのね」と思った次第です。


ふと思い出しました。
1年前にキリンとサントリーの経営統合の話が破綻になったときのことを。
証券会社勤務で、M&Aに詳しい友人はこんなことを言っていました。
「企業文化の違い、温度差が理由で破談とか言っているけど...。
そんなこと言っている場合じゃないと思うだよなぁ。
強い産業を作って新興国を攻めるっていう発想を持たなくちゃ・・・」
グローバル競争時代に勝つためには、このような大胆な経営統合、
合併、企業買収は起こっていくのでしょう。


よく指摘されることですが日本は市場規模の割には企業数が多すぎるのではないかと言われています。
まぁ、国際競争戦略の理論では、本国での競争が激しい方が産業・企業は洗練されるという考え方はあります。


ただ、単なる足の引っ張り合いになっていては意味がありません。
ましてや、世界市場で通用しないガラパゴス競争になっては意味がないわけです。
もちろん、日本は韓国の倍以上の人口があり、世界有数の市場だったわけで、
それでも生き残れたわけなのですが。


今後は、韓国のように各業界で2社くらいの強大な企業が誕生し、世界と戦う時代になるのでしょう
(もっとも、最適な企業数は業界の特性、歴史などにもよりますが)。


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業界・企業の未来シナリオを考えよう


学生の皆さんに意識したいのは、自分が志望する業界・企業の未来シナリオを考えることです。
そのためには、まずは業界・企業の歴史を知ることですね。過去と現在を直視しましょう。


その上で、業界に参入している企業を俯瞰し、ポジショニングを確認しましょう。
さらに、これから起こりそうな変化を予想したいところです。
金融機関やシンクタンク、メディアなどが発表する予測シナリオ、
個別の事業会社が発表する中長期計画は参考になります。
さらに大胆に、この業界の国際的競争力を劇的に高めるにはどうするべきか、
あるいはある一社を想定して劇的にシェアを伸ばすためにはどうすればいいかを考えてみましょう。
その際に、国内外の企業のM&Aは有効な手段の一つです。
もちろん、闇雲に企業を買い漁ることはナンセンスですが。
学生さんはM&Aと聞くと、なんとなく嫌なイメージを持つわけですが、強くなるための手段ではあります。
実際、成長したいと思った企業は手段としてM&Aを効果的に行っています。
それを目的化するのもよくないですが、どの企業を買収すればもっと強くなれるのかを考えてみるのもよいでしょう。


「君は生き残ることができるか?」




私は直球の機動戦士ガンダム世代です。
初代ガンダムの予告編のメッセージは「君は生き残ることができるか?」でした。
まさに、いまは業界も企業も、そして個人もそんな時代ですねぇ。
入社した企業が経営統合をしたり、どこかの企業を買収したり、
あるいは事業を売却するというのはよくあることです。


私は大手企業2社に勤めていた経験があるのですが、取締役会で決議し、
対外的に発表した直後に全社メールで企業を買収することや、事業を売却することを知ることはよくあることでした。


そういえば、「トヨタとリクルート合弁会社設立」というニュースを新聞で読み、
「へー」と思ったところ、広報は「そのような事実はありません」と回答。
その9ヶ月後くらいにそのニュースを同じ新聞で通勤中に読み「やっぱりやるんじゃん。誰が出向するんだろう?」と思っていたら、
その日の晩に「あなたにこの会社に行ってもらうから」と内示があったこともありましたねぇ。
思えば、私が就活していたころは「都市銀行」と呼ばれる銀行は10行以上ありました。
気づけば、3大メガバンク時代に。「絶対にうちにきてくれ」といくつかの人事に口説かれた末、
ある銀行に入行したところ、迷っていた銀行同士が合併し「結局、同じだったじゃん・・・」という状態になった人も。
各社のデータを見ても、終身雇用を期待する若者はここ数年増え続けています。
よく安定志向、保守化と批判されますが、現状の不安定な環境を考えるとそれを願う気持ちも分からなくはありません。
ただ、これからの日本を考えるとたとえ同じ会社に勤め続けたとしても、
入り口と出口でその企業が合併や分化で大きく変わっていることはあるものだと思っていた方がいいでしょう。


そして、経営統合や合併はネガティブなものではなく、強くなるための変化であることも意識しておきましょう
(中には妥協の産物でしかないものや救済的な取り組みもありますが)。
この国を、その業界・企業を、そして自分自身がしなやかに強く生き残るためにはどうするかという視点を持ちましょう。
なので、あえて大胆に言いますが、「日立と三菱重工の経営統合報道」くらいでビビっている場合じゃないのです。
ちなみに、やや古い本ですが『国の競争優位(上・下)』(マイケル・E・ポーター ダイヤモンド社)は国際競争戦略を理解する本としてオススメです。特に商学部、経営学部の学生はチェックですね。




執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。