「就活予備校」の増加で、問われる大学の意義

2011.7.28  4793Views

こんにちは、常見陽平です。




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 「学生からお金をとるなんて...」否定的なコメントが目立つ有料就活支援サービス
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ここ数年、学生の就活支援、キャリア支援に関する有料のサービスが多数立ち上がっています。
古くは我究館などが有名でしたが、最近は専門学校や予備校も参入しています。


直球の就活支援ではないですが、次のようなニュースもありましたね。


マイナビとグロービス経営大学院が共同で大学生のキャリア育成を支援
早稲田塾を運営するサマデイが、就職控えた学生がマネジメントを学べる「予備校」を開校(日経ビジネスオンライン)
 
他にも、就活相談を1回数千円~2万円程度でやる企業、エントリーシートの添削指導サービス、
家庭教師が家にやってきて90分1万5000円で相談にのってくれるサービスなどもあります。


今年は特に、学校の近くでチラシが配布され話題になっています。
メディアでは「ここまでしないと内定がとれない」という趣旨で紹介されますし、
ネットでも「学生からお金をとるなんて」「学生を食い物にして」という批判の声があります。


今のところ否定的な意見が多数だと感じます。






 むしろ、大学の存在意義が問われる?
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この件について、キャリア教育に関わっている都内の大学職員と意見交換をしました。
興味深いコメントがかえってきました。
 
「今のところは、"怪しい"とか"学生からお金をとって..."などと批判されていますが...。
このサービスが成果を出し始めたら、むしろ問われるのは大学の就職課だと思うのですよ...」


彼によると、これらのサービスを利用した学生が
「こっちの方がためになる」
「行きたい企業に内定できた」
という風になり評判になると、いくら無料とはいえ、大学で主催している講座に学生が来なくなるのではないか、
そして、就職課が、いや大学の存在が問われるのではないかということです。


「学生からお金をとるなんて...」ということばかりが議論になりますが、それとは違った視点で新鮮でした。
 
有料の講座に出たことのある学生にインタビューしたことがありますが、正直、内容の質や満足度は様々です。
中には「金返せ」と言いたくなる講座もあったとのこと。


とはいえ、お金を払ってでも学びたいという人の期待に応えるため、プロの講師が一生懸命教えます。
受験の時に、予備校の先生の方が高校の先生よりも教えるのが上手だったと感じたことはきっとあるでしょう。
あれと同じ感覚ですね。
有料の講座に通っていた学生によると、プロによるきめ細かい指導が受けられて満足度が高かったとか。


また、お金を払うことで「やらなくちゃ」という覚悟が生まれた部分も大きいとのことでした。
 




 就活支援ビジネスが成立する背景
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こんな視点からも考えてみましょう。
商品・サービスとは何か?ということです。


仕事とは価値の創出と提供により対価を得る行為です。
商品・サービスは価値の提供を媒介するものです。


価値とは何でしょうか。


その一つには、不満や不安を解消するということがあるかと思います。
「学生からお金をとって、けしからん」
「こんなことまでしないといけない時代なのか・・・」というお気持ちは分かりますが、
このようなビジネスが成立する背景には、課題や不安・不満があるということを認識すべきです。


ビジネスは「不安」「不満」「不自由」など「不」から始まるものなのです。


それこそ、大学に入るためには予備校や塾、参考書などに結構なお金が入ります。
もっと言うと、俗に言う「いい大学」に入るために、中学や高校は私立に通わせる親もいるわけです。
ここの出費は相当なものですが、すっかり定着しているために就活での有料塾ほどは叩かれません。
 
そもそも論で言うならば、「有名な大学に入れたら、誰でも就活は上手くいく」
「大学で勉強した知識で就活が楽勝に進む」のならいいのですけど、そういうわけにもいきません。


大学に入る力、大学の勉強で身につく力、就活で求められる力、社会に出てから求められる力
には断層があるのですね。
もちろん、ここは肥大化、煩雑化した就活の弊害が出ている部分でもありますが。
 
有料のサービスに対する期待が学生や親の間で高まるのもしょうがないことかなとも思います。






 「無料の講座」も実は有料?
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「大学の就職課が主催する講座は無料。だから、比較するのはおかしいのでは?」
 
という意見もあることでしょう。そうでしょうか。
就職課が主催する講座も、実は皆さんが払っている学費や、各省庁からの補助金で運営されています。
つまり、間接的に皆さんはお金を払っているのです。
 
他にも様々な団体や個人が主催する無料のセミナーがありますが、それも下心があるものです。
就職情報会社が主催するイベントは、会員集めや満足度のアップが狙いです。
一企業が主催する「就活応援講座」「ビジネススキル講座」のようなものもありますが、
最終的にはその企業に応募してもらいたい、あるいは学生をリサーチしたいという下心があるわけです。
それこそ、合同企業説明会なども学生の参加は無料ですが、
企業からはもちろんお金をもらっています(人気企業などは客寄せパンダになるため、無料だったり大幅割引だったりしますが)。
 




 「払った額、かけた時間分の価値があるのか?」という視点を
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前述したとおり、この手のサービスは単に「お金を払わせるなんてけしからん」
「そこまでしないといけないのか・・・」というものから、
「なんか、怪しい」というものまで様々なご意見があるかと思います。


お気持ちは分かりますが一歩引いた眼で、
「納得内定するために、自分にとって本当に必要なのか?」という視点を持ちたいですね。


「内定はゴールではない」とよく言いますし、私もそう思いますが、
とはいえ、「内定」が欲しいために学生は四苦八苦しているのもまた事実。


納得内定のためにこれらのサービスが必要だと感じて、
フィットすると思ったなら自分の意思で使えばいいでしょう。


要するに「価値があるかどうか」、もっと言うと「価値を感じるかどうか」がポイントですかね。
 
別にこれらは選択肢の一つでしかありませんし、
「行かなければならないのでは?」と焦る必要もないと思います。
先輩などの意見も聞きつつ、自分にフィットしたやり方を考えてみましょう。
 
有料のものであれ、無料のものであれこの手の講座は「元をとる」という発想が必要だと思います。
そして、別にマストではありません。


時代は違いますが、私は、就活本は無料で配布された就職ジャーナルくらいしか読みませんでしたし、
受験の時も予備校には通わず、通信教育の教材と参考書、過去問くらいしか使いませんでした。
お金をかけたくなかったし、自分でやるのが一番だと思ったからです。


自分にフィットするやり方でいいじゃないですか。
 




 ますます問われる大学のあり方
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個人的に注目しているのは、就活支援系の有料ビジネスが受け入れられるかどうかもそうですが、
そのことにより、実は大学自体のあり方がますます問われるのではないですかね。


「大学は勉強するところ」は正論ですけど、あれだけ受験勉強して、
あれだけの学費と時間を投じるまで価値がありますかね?


もちろん、それは短期・中期・長期でジャッジしないといけないのですが。
かつて何人かの著名人が「大学の価値というのは、ラベリング機能しかないのではないか?」と発言し、
炎上気味になりました。
感情から言うならば嫌悪感を抱く人もいるでしょう。
でも、この手のビジネスの存在自体が、今後、大学の存在意義をますます問うように思います。
 


皆さんは、どう思いますか?

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。